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質問​3

わたしたちの設計図はどこから来たのか

わたしたちの設計図はどこから来たのか

目​や​髪​や​肌​の​色​など,わたしたち​の​外見​は​何​に​よっ​て​決まる​の​でしょ​う​か。背丈​や​体格​は​どう​です​か。どうして​わたしたち​は​親​に​似​て​いる​の​でしょ​う​か。指先​の​片側​が​クッション​の​よう​に​柔らかく​なり,反対​側​は​硬い​爪​で​覆わ​れる​の​は​なぜ​でしょ​う​か。

チャールズ​・​ダーウィン​の​時代,こう​し​た​疑問​の​答え​は​謎​に​包ま​れ​て​い​まし​た。ダーウィン​自身,体​の​特徴​が​親​から​子​へ​受け継が​れる​こと​に​強い​関心​を​抱き​まし​た​が,遺伝​法則​に​つい​て​ほとんど​知り​ませ​ん​でし​た。まして​遺伝​を​つかさどる​細胞​内​の​メカニズム​など​論外​でし​た。しかし​今​で​は,生物​学​者​たち​の​多年​に​わたる​研究​に​より,ヒト​の​遺伝​と,驚異​の​分子​DNA(デオキシリボ​核酸)の​中​に​埋め込ま​れ​て​いる​詳細​な​設計​図​が​明らか​に​なっ​て​き​て​い​ます。と​は​いえ,大きな​疑問​が​あり​ます。そう​し​た​設計​図​は​どこ​から​来​た​の​でしょ​う​か。

科学​者​たち​の​考え: DNA​の​暗号​化​さ​れ​た​設計​図​は,長い​年月​を​経る​うち​に​起き​た​偶然​に​よっ​て​ひとりでに​生じ​た,と​生物​学​者​など​多く​の​科学​者​たち​は​考え​て​い​ます。DNA​の​分子​構造​に​も,DNA​の​保持​・​伝達​する​情報​に​も,DNA​の​機能​に​も,デザイン​の​証拠​は​全く​見​られ​ない,と​言い​ます。17

聖書​は​何​と​述べ​て​いる​か: 聖書​は,人体​の​各部​の​形成​と​その​タイミング​に,神​の“書”が​かかわっ​て​いる,と​述べ​て​い​ます。ダビデ​王​は​霊感​を​受け​て,神​に​つい​て​こう​記し​て​い​ます。「あなた​の​目​は​胎児​の​とき​の​わたし​を​も​ご覧​に​なり​まし​た。あなた​の​書​に​その​すべて​の​部分​が​書き記さ​れ​て​い​まし​た。それ​が​形造ら​れ​た​日々​に​つい​て,しかも,それら​の​うち​の​一つ​も​まだ​なかっ​た​の​に」。―詩編 139:16

事実​は​何​を​示し​て​いる​か: もし​進化​が​真実​なら,DNA​が​偶然​の​出来事​の​連続​に​よっ​て​生ま​れる​可能​性​が​幾らか​は​ある​はず​です。もし​聖書​が​真実​なら,DNA​の​中​に,聡明​な​知性​を​持つ​方​に​よっ​て​造ら​れ​た​証拠​が​ある​はず​です。

DNA​の​見事​な​仕組み​は,身近​な​物​に​置き換え​て​考える​と​理解​し​やすく​なり​ます。では,もう​一度,細胞​内​の​見学​に​出かけ​ましょ​う。今度​は,ヒト​の​細胞​です。細胞​の​働き​を​学べる​博物​館​に​行っ​て​み​ましょ​う。全体​が​ヒト​の​代表​的​な​細胞​の​模型​に​なっ​て​いる​博物​館​です。大きさ​は​実際​の​細胞​の​1,300万​倍​です。7万​人​を​収容​できる​大型​スポーツ​競技​場​並み​の​大きさ​です。

博物​館​の​中​に​入っ​て,まず​目​を​奪わ​れる​の​は,たくさん​の​奇妙​な​物体​です。中央​に​は​球形​の​核​が​あり,高さ​は​20​階​建て​の​建物​ほど​です。では,核​の​中​に​入っ​て​み​ましょ​う。

『工学​技術​の​偉業』 DNA​の​収納: 細胞​核​内​へ​の​DNA​の​収納​は​工学​技術​の​驚く​べき​偉業 ― 長さ​40​㌔​の​極細​糸​を​テニスボール​に​詰める​よう​な​もの

核​の​外壁,つまり​核膜​に​ある​ドア​を​通っ​て​中​に​入る​と,46​本​の​染色体​が​目​に​入り​ます。同じ​もの​が​対​に​なっ​て​おり,高さ​は​さまざま​です​が,一番​近く​に​ある​の​は​12​階​建て​の​建物​ほど​です(1)。各​染色体​は​中央​が​くびれ​て​い​て,つながっ​た​ソーセージ​の​よう​です。でも,太さ​は​巨木​の​幹​くらい​あり​ます。染色体​に​は​横筋​が​たくさん​入っ​て​い​ます。近く​に​寄っ​て​見る​と,それぞれ​の​筋​に​縦線​が​付い​て​おり,縦線​の​間​に​は​短い​横線​が​入っ​て​い​ます(2)。本​が​積ま​れ​て​いる​の​でしょ​う​か。いいえ。ぐるぐる​と​きつく​巻か​れ​た​ロープ​の​外側​が​そう​見える​の​です。ロープ​の​一部​を​引っ張る​と,手前​に​出​て​来​ます。すると​なんと,ロープ​は​もっと​小さな​幾つ​も​の​コイル​で​出来​て​おり(3),きれい​に​並ん​で​い​ます。コイル​の​中​に​は,最も​大切​な​部分​が​入っ​て​い​ます。途方​も​なく​長​い​ひも​の​よう​な​物​です。これ​は​いったい​何​でしょ​う。

驚異​の​分子​DNA​の​構造

染色体​の​模型​の​この​部分​を​ひも​と​呼ぶ​こと​に​し​ましょ​う。太さ​は​2.6​㌢​です。リール​に​きつく​巻か​れ​て​コイル​に​なっ​て​いる​の​で(4),それ​が​さらに​ぐるぐる​と​巻か​れ​て​大きな​コイル​を​作っ​て​も​崩れ​ませ​ん。また,コイル​は​足場​の​よう​な​物​に​据え付け​られ​て​いる​の​で,ある​べき​場所​に​保た​れ​ます。パネル​に​説明​が​載っ​て​い​ます。この​ひも​の​収納​は​抜群​に​効率​が​よい,と​の​こと​です。染色体​の​模型​すべて​から​ひも​を​ほどい​て​伸ばす​と,地球​を​半周​する​ほど​の​長さ​に​なる​の​です! *

ある​科学​文献​は,効率​の​良い​この​収納​システム​を「工学​技術​の​並外れ​た​偉業」と​呼ん​で​い​ます。18 では,この​偉業​に​は​どんな​技術​者​も​かかわっ​て​い​ない,と​考える​の​は​理​に​かなっ​て​いる​でしょ​う​か。この​博物​館​の​中​に,何百万​点​も​の​商品​を​きれい​に​陳列​し​た​大型​ストア​が​あり,欲しい​物​を​簡単​に​見つけ​られる​と​し​たら,そう​し​た​店​が​ひとりでに​出来​た​と​考える​でしょ​う​か。もちろん,そう​は​考え​ない​でしょ​う。しかも,店​の​収納​効率​は​細胞​に​は​遠く​及ば​ない​の​です。

ひも​の​横​の​パネル​に,「手​に​とっ​て​ご覧​ください」と​書か​れ​て​い​ます(5)。手のひら​に​載せ​て​見​て​みる​と,これ​は​ただ​の​ひも​で​は​ない​こと​に​気づき​ます。向かい合う​2​本​の​糸​が​ねじれ​た​構造​に​なっ​て​い​ます。2​本​の​糸​は,等間隔​に​ある​細い​棒​で​つながっ​て​い​ます。ねじれ​た​はしご​の​よう​で​あり,らせん​階段​に​似​て​い​ます(6)。そう​です,これ​こそ​生命​の​神秘,DNA​分子​です。

1​本​の​DNA​分子​が​リール​や​足場​に​よっ​て​きれい​に​まとめ​られ,1​本​の​染色体​に​なっ​て​い​た​わけ​です。はしご​の​横木​は,塩基​対(7)と​呼ば​れ​て​い​ます。これ​は​いったい​何​でしょ​う​か。どんな​役目​が​あり​ます​か。パネル​に​簡単​な​説明​が​あり​ます。見​て​み​ましょ​う。

究極​の​情報​記憶​システム

パネル​に​は​こう​書か​れ​て​い​ます。DNA​を​理解​する​かぎ​は,はしご​の​両側​を​つなぐ​横木​に​あり​ます。はしご​を​縦​に​割っ​た​と​し​ましょ​う。はしご​の​縦木​それぞれ​から​横木​の​半分​が​突き出​て​い​ます。横木​の​部品​は​4​種類​しか​なく,科学​者​に​よれ​ば,A​・​T​・​G​・​C​と​呼ば​れ​ます。そして​なんと,この​4​文字​の​配列​は​暗号​化​さ​れ​た​情報​で​ある,と​いう​こと​が​分かっ​て​い​ます。

19​世紀​に​発明​さ​れ​た​モールス​符号​を​ご存じ​か​も​しれ​ませ​ん。これ​に​より,電信​に​よる​通信​が​可能​に​なり​まし​た。モールス​符号​で​用いる“文字”は,点(・)と​線(–)の​二つ​だけ​です。それでも,数多く​の​単語​や​文​を​作り出せ​ます。一方,DNA​の​暗号​が​用いる​の​は​4​文字​です。A​・​T​・​G​・​C​の​配列​の​違い​に​よっ​て,コドン​と​呼ば​れる​様々​な“単語”が​作ら​れ​ます。コドン​が​連なる​と,遺伝子​と​いう“文章”に​なり​ます。遺伝子​一つ​は,平均​し​て​2万7,000​文字​から​成っ​て​い​ます。遺伝子​と,各​遺伝子​間​の​長い​領域​が​組み​合わさり,染色体​と​いう“章”が​出来上がり​ます。そして,23​の​染色体​が​ゲノム​と​いう​1​冊​の“本”,つまり​ヒト​の​全​遺伝子​情報​を​形成​し​ます。 *

ゲノム​は​巨大​な​本​です。どれ​ほど​の​情報​が​収め​られ​て​いる​の​でしょ​う​か。合計​する​と,ヒト​の​ゲノム​は​30億​ほど​の​塩基​対(DNA​の​はしご​の​横木)で​成っ​て​い​ます。19 1​巻​が​1,000​ページ​余り​の​百科​事典​を​例​に​考え​て​み​ましょ​う。ゲノム​の​百科​事典​は​全部​で​428​巻​に​なり​ます。各​細胞​内​に​ある​ゲノム​の​もう​一つ​の​セット​を​合わせる​と,856​巻​に​なり​ます。この​ゲノム​百科​事典​全巻​を​タイピング​入力​する​と​し​たら,1​日​8​時間,週​5​日,休暇​なし​で​働い​て​も,80​年​かかる​ほど​の​情報​量​です!

たとえ​全部​を​入力​し​終え​た​と​し​て​も,出来上がっ​た​事典​は​人体​に​とっ​て​は​無​意味​です。その​何百​巻​も​の​事典​を​100兆​個​も​ある​極小​細胞​の​一つ​一つ​に​収め​なけれ​ば​なら​ない​から​です。そんな​こと​など​できる​でしょ​う​か。それ​ほど​の​情報​圧縮​は,わたしたち​の​手​に​は​とても​負え​ませ​ん。

分子​生物​学​と​コンピューター​科学​の​ある​教授​は​こう​述べ​て​い​ます。「乾燥​さ​せる​と​1​立方㌢​ほど​の​体積​に​なる​D​N​A​1​㌘​は,CD[コンパクト​・​ディスク]約​1兆​枚​分​の​情報​を​記録​できる」。20 これ​は​何​を​意味​する​でしょ​う​か。すでに​考え​た​よう​に,DNA​に​は,遺伝子​つまり​各人​の​体​の​設計​図​が​含ま​れ​て​おり,各​細胞​に​同じ​完全​な​設計​図​が​入っ​て​い​ます。では,ティースプーン​1​杯​の​DNA​に​は,何​人​分​の​設計​図​を​収め​られる​でしょ​う​か。なんと​現在​の​世界​人口​の​約​350​倍​分​です。世界​の​70億​人​分​の​設計​図​なら,ティースプーン​1​杯​の​表面​だけ​で​十分​な​の​です。21

著者​の​い​ない​本?

D​N​A​1​㌘​は,CD1​兆​枚​分​の​情報​を​記録​できる

記憶​装置​の​小型​化​が​進ん​だ​今​で​も,人間​の​作っ​た​製品​で,これ​ほど​の​容量​の​もの​は​あり​ませ​ん。と​は​いえ​CD​は,比較​する​の​に​ぴったり​の​例​です。考え​て​み​て​ください。CD​の​左右​対称​の​形,光沢​の​ある​表面,無駄​の​ない​デザイン​は​実​に​見事​です。知性​の​ある​人​が​作っ​た​こと​は​明らか​です。では,この​CD​に​情報​が​記録​さ​れ​て​いる​と​し​たら,どう​です​か。しかも,無​意味​な​情報​で​は​なく,複雑​な​機械​の​製作​・​保守​・​修理​の​手順​に​つい​て​の​明快​で​詳細​な​指示​が​記録​さ​れ​て​いる​と​し​たら。そう​し​た​情報​は,CD​の​重さ​や​大きさ​に​影響​し​ない​と​し​て​も,CD​の​最も​重要​な​部分​です。情報​が​収め​られ​て​いれ​ば,当然​だれ​か​知性​の​ある​人​が​書き込ん​だ​と​考える​の​で​は​ない​でしょ​う​か。情報​を​書き込む​に​は,書き込み​手​が​必要​です。

DNA​を​CD​や​本​に​例える​の​は,こじつけ​で​は​あり​ませ​ん。ゲノム​に​関する​ある​本​は​こう​述べ​て​い​ます。「ゲノム​を​本​と​考える​の​は,厳密​に​言っ​て,比喩​で​は​ない。まさに​その​とおり​な​の​で​ある。本​は​デジタル​情報​の​一つ​だ。……ゲノム​も​そう​で​ある」。こう​も​言っ​て​い​ます。「ゲノム​は​とても​賢い​本​だ。条件​が​整っ​て​いれ​ば,自ら​を​コピー​する​こと​も​読み取る​こと​も​できる​から​で​ある」。22 では​次​に,DNA​の​この​大切​な​働き​に​注目​し​ましょ​う。

機械​が​動く

しんと​し​た​博物​館​に​い​て,一つ​疑問​が​わき​ます。実際​の​細胞​核​は,この​模型​の​よう​に​じっ​と​静止​し​て​いる​の​でしょ​う​か。ふと​見る​と,別​の​展示​物​が​あり​ます。ガラス​の​ショーケース​に,DNA​の​模型​の​一部​が​入っ​て​い​て,上​に「ボタン​を​押す​と​動き​ます」と​書か​れ​て​い​ます。ボタン​を​押す​と,音声​ガイド​が​流れ​ます。「DNA​は​少なく​と​も​二つ​の​大切​な​仕事​を​し​ます。一つ​は​複製​です。DNA​は,新しい​細胞​すべて​に​一揃い​の​遺伝​情報​が​含ま​れる​よう​に​する​ため,コピー​され​なけれ​ば​なり​ませ​ん。これ​を​どの​よう​に​行なう​か,ご覧​ください」。

展示​物​の​端​の​扉​から,いかにも​複雑​な​機械​が​現われ​ます。幾つ​も​の​ロボット​が​ぴったり​組み合わさっ​た​機械​です。DNA​に​近づい​て​密着​し,線路​の​上​を​走る​列車​の​よう​に,DNA​に​沿っ​て​動き​ます。速すぎ​て​何​を​し​て​いる​の​か​よく​分かり​ませ​ん​が,機械​の​後ろ​から,元々​は​1​本​だっ​た​DNA​の​ひも​が​2​本​に​増え​て​出​て​き​て​いる​の​が​見え​ます。

音声​ガイド​が​流れ​ます。「これ​は,DNA​の​複製​の​様子​を​ごく​簡単​に​再現​し​た​もの​です。幾つ​も​の​分子​機械​つまり​酵素​が​DNA​に​沿っ​て​移動​し​ます。まず,DNA​を​2​本​の​糸​に​分け,それぞれ​の​糸​を​鋳型​と​し​て,それ​と​対​に​なる​新た​な​糸​を​作り出し​ます。すべて​を​お見せ​で​き​ませ​ん​が,ほか​に​も​いろいろ​な​物​が​かかわっ​て​い​ます。例えば,複製​機械​の​前​を​行き,DNA​の​片方​の​糸​を​切断​し​て,DNA​の​ねじれ​が​きつく​なりすぎ​ない​よう​に​緩める​小さな​装置​が​あり​ます。また,DNA​の“校正”も​何​度​か​行なわ​れ​ます。驚異​的​な​正確​さ​で,誤り​を​発見​・​修正​し​ます」。― 16‐17​ページの​図​を​ご覧​ください。

音声​ガイド​が​続き​ます。「作業​速度​は​お分かり​いただける​と​思い​ます。ロボット​は​かなり​の​スピード​で​動い​て​い​ます。実際​の​酵素​機械​は,DNA​の“線路”に​沿っ​て,1​秒​で​100​の​横木​つまり​塩基​対​を​通り過ぎ​ます。23 実際​の​線路​に​拡大​し​て​考える​と,この“機関​車”は​時速​80​㌔​以上​で​疾走​し​て​いる​こと​に​なり​ます。細菌​の​場合,速度​は​その​10​倍​です。ヒト​の​細胞​で​は,何百​も​の​複製​機械​が​DNA​の“線路”の​各所​に​行っ​て​働き​ます。ゲノム​全体​の​コピー​を​わずか​8​時間​で​やってのけ​ます」。24 ―20​ページ​の「 読み取ら​れ​コピー​される​分子」と​いう​囲み​を​ご覧​ください。

DNA​を“読み取る”

DNA​の​複製​ロボット​が​脇​へ​退き,別​の​機械​が​現われ​ます。これ​も​DNA​に​沿っ​て​動き​ます​が,少し​ゆっくり​です。DNA​の​ひも​が​機械​の​中​に​入っ​て​いき,そのまま​の​姿​で​反対​側​から​出​て​き​ます。でも,1​本​の​新しい​糸​が​別​の​所​から​出​て​き​て​い​ます。しっぽ​が​伸び​て​いる​か​の​よう​です。何​が​起こっ​て​いる​の​でしょ​う。

再び​音声​ガイド​が​流れ​ます。「DNA​の​二​つ​目​の​仕事​は​転写​です。DNA​は​核​と​いう​安全​な​シェルター​の​外​に​出る​こと​は​あり​ませ​ん。では,人体​を​構成​する​全​タンパク質​の“レシピ”で​ある​遺伝子​は,どう​やっ​て​読ま​れ​て​使わ​れる​の​でしょ​う​か。そこで​活躍​する​の​が​この​酵素​機械​です。この​機械​は​まず,DNA​上​の​特定​の​遺伝子​を​見つけ​ます。細胞​核​外​から​の​化学​的​シグナル​に​よっ​て​スイッチ​が​オン​に​なっ​た​遺伝子​です。次​に,その​遺伝子​の​コピー​を​作り​ます。その​コピー​は​RNA(リボ​核酸)分子​と​呼ば​れ​ます。RNA​は​一見,DNA​の​片方​の​糸​に​似​て​い​ます​が,実際​は​違い​ます。遺伝子​内​の​暗号​化​さ​れ​た​情報​を​入手​する​こと​が​仕事​です。酵素​の​中​に​いる​間​に​情報​を​得​て,その​後,核​から​外​へ​出​て​リボソーム​に​行き,情報​は​そこで​タンパク質​の​生成​に​使わ​れ​ます」。

こう​し​た​模型​が​あれ​ば,思わず​見入っ​て​しまう​でしょ​う。この​博物​館​に,そして​機械​を​デザイン​し​て​造っ​た​人​の​才能​に​驚かさ​れる​でしょ​う。では,展示​物​も​含め​て​この​博物​館​全体​が​動き出し,ヒト​の​細胞​内​で​同時​に​行なわ​れ​て​いる​無数​の​仕事​が​再現​さ​れる​と​し​たら,どう​です​か。あまり​の​迫力​に​圧倒​さ​れる​でしょ​う。

でも​実​は,複雑​で​小さな​機械​に​よる​こう​し​た​作業​は​すべて,人体​の​100兆​も​の​細胞​の​中​で,今​この​瞬間​も​行なわ​れ​て​い​ます。DNA​が​読み取ら​れ​て,酵素​・​組織​・​器官​など​体​を​構成​する​数十万​種​も​の​タンパク質​の​生成​を​指示​し​て​い​ます。DNA​が​コピー​・​校正​さ​れ,出来上がっ​た​一揃い​の​指示​が​新た​な​細胞​内​に​組み込ま​れ​て,いつ​で​も​読み取れる​よう​に​なっ​て​い​ます。

こう​し​た​事実​は​何​を​意味​する​か

では,もう​一度,『こう​し​た​設計​図​すべて​は​どこ​から​来​た​の​だろ​う​か』と​考え​て​み​ましょ​う。聖書​は,この​設計​図​と​いう“本”は​人間​より​優れ​た​方​に​よっ​て​書か​れ​た,と​述べ​て​い​ます。この​見方​は​本当​に,時代​後れ​で​非​科学​的​な​の​でしょ​う​か。

こう​考え​て​み​て​ください。いま​見学​し​た​よう​な​博物​館​を,人間​は​作れる​でしょ​う​か。作ろ​う​と​し​て​も,大きな​壁​に​ぶつかる​でしょ​う。ヒト​の​ゲノム​と​その​機能​の​大半​は,まだ​ほとんど​解明​さ​れ​て​い​ませ​ん。科学​者​たち​は,全​遺伝子​の​場所​と​働き​を​明らか​に​し​よう​と​奮闘​し​て​い​ます。そのうえ,DNA​の​糸​の​うち​遺伝子​が​ある​領域​は,全体​の​ごく​一​部分​に​すぎ​ませ​ん。遺伝子​を​含ん​で​い​ない,ほか​の​大部分​は​何​な​の​でしょ​う​か。その​部分​を​科学​者​たち​は​ジャンク​DNA(がらくた​DNA)と​呼ん​で​き​まし​た。しかし,最近​に​なっ​て​この​見方​を​改め​て​い​ます。ジャンク​DNA​は​遺伝子​の​使用​の​方法​と​程度​を​コントロール​し​て​いる​よう​な​の​です。たとえ​これ​から​解明​が​進ん​で,科学​者​が​DNA​の​完全​な​模型​と,コピー​・​校正​を​行なう​機械​を​作り上げ​た​と​し​て​も,実際​の​DNA​の​働き​を​完璧​に​再現​する​こと​など​でき​ない​でしょ​う。

著名​な​科学​者​リチャード​・​ファインマン​が​亡くなっ​た​時,黒板​に​こう​書き残さ​れ​て​い​まし​た。「私​は​自分​に​作れ​ない​もの​は,理解​でき​ない」。25 率直​で​謙虚​な​この​コメント​は​好感​が​持てる​だけ​で​なく,DNA​に​関する​真実​を​突い​て​い​ます。DNA​も​複製​酵素​や​転写​酵素​も,科学​者​は​作れ​ませ​ん。全部​を​解明​する​こと​も​でき​ませ​ん。それでも,DNA​は​すべて​偶然​に​ひとりでに​生じ​た​に​違いない,と​述べる​人​も​い​ます。この​見方​は,これ​まで​考え​て​き​た​事実​と​調和​し​て​いる​でしょ​う​か。

事実​は​正​反対​の​こと​を​示し​て​いる,と​判断​する​識者​も​い​ます。例えば,DNA​の​2​重​らせん​構造​の​発見​に​貢献​し​た​科学​者​フランシス​・​クリック​は,DNA​分子​は​あまりに​も​秩序立っ​て​いる​の​で,ひとりでに​生じ​た​と​は​考え​られ​ない,と​結論​し​まし​た。そして,知性​を​持つ​地球​外​の​生命​体​が​DNA​を​地球​へ​送り込み,生命​の​誕生​を​助け​た,と​いう​説​を​提唱​し​まし​た。26

もっと​最近​で​は,50​年​に​わたり​無神​論​を​唱え​て​き​た​高名​な​哲学​者​アントニー​・​フルー​が,考え​を​180​度​変え​まし​た。81​歳​の​時​に,生命​は​何らか​の​知性​の​働き​に​よっ​て​造ら​れ​た​に​違いない,と​述べる​よう​に​なっ​た​の​です。なぜ​考え​を​改め​た​の​でしょ​う​か。DNA​の​研究​の​ゆえ​です。フルー​は,あなた​の​新た​な​考え​は​科学​者​たち​に​好ま​れ​ない​か​も​しれ​ませ​ん​ね,と​言わ​れ​て,こう​答え​た​と​の​こと​です。「それ​は​残念​です。わたし​は​これ​まで​ずっ​と,一つ​の​原理​に​従っ​て​生き​て​き​まし​た。……どこ​へ​行き着こ​う​と​も​事実​が​導く​ところ​へ​進む,と​いう​原理​です」。27

あなた​は​どう​考え​ます​か: 事実​は​どこ​へ​導い​て​いる​でしょ​う​か。ある​工場​の​中心​部​に​コンピューター​室​が​ある​と​し​ましょ​う。コンピューター​が,工場​の​全​工程​を​制御​する​複雑​な​メインプログラム​を​実行​し​て​い​ます。しかも,その​プログラム​は,工場​内​の​機械​すべて​の​製作​・​保守​に​関する​指示​を​常​に​出し,なおかつ​自ら​プログラム​を​コピー​・​校正​し​て​い​ます。この​事実​から,どんな​結論​に​至る​でしょ​う​か。コンピューター​と​プログラム​が​ひとりでに​出来​た​と​考え​ます​か。それとも,聡明​な​知性​を​持つ​者​に​よっ​て​作ら​れ​た​と​考える​でしょ​う​か。答え​は​明らか​です。

^ 12節 「細胞​の​分子​生物​学」(英語)と​いう​教本​は,別​の​比較​を​用い​て​い​ます。その​例え​に​よれ​ば,この​長い​ひも​を​細胞​核​の​中​に​収納​する​の​は,長さ​40​㌔​の​極細​糸​を​テニスボール​の​中​に​詰める​よう​な​もの​です。しかも,糸​は​秩序​正しく​整然​と​収め​られ​て​おり,どの​部分​で​も​簡単​に​利用​でき​ます。

^ 18節 各​細胞​に​は,ゲノム​が​2​セット​入っ​て​い​ます。合わせ​て​染色体​46​本​分​に​なり​ます。